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体験者であることを公言すること

カウンセリングや心理療法を受けてみようかと思い、いろいろ調べると、よく治療者自身がうつ病から抜け出しましたとか、ひきこもりでしたとか、自分も発達障害を持っていますとか、アダルトチルドレンですとか、今なら流行りの自分もHSPです…というように治療者自身の体験を”売り”にしていることがよくあります。確かに同じ悩みを持っていた人がその悩みを克服し、日常の生活を送っている、さらには人を助ける側にいるとなれば、その話を聞いてみたくなるし、同じ方法で克服できるかも知れないという希望も持てます。ただ、治療者として、それを前面にアピールすることは、とても危険なことだと思うのです。


カウンセラーやセラピストが何らかのトラウマ体験や病気の体験、障害の体験があること自体が問題なのではありません。確かにそうした体験をしている治療者の方が、当事者の気持ちをよく理解できるかも知れません。ただの体験者としての相談者になるのか、そうした体験によって治療者としての奥行きを深めた心理士になるのかは、この体験の扱いにかかっているとも言えるのです。


カウンセラーも人間ですので、様々な感情体験をしてきています。特にこういう仕事を選ぶということは、自分の抱える問題や悩みについても人一倍を興味を持ってきた人に違いありません。心理士になるきっかけは同じ悩みを持つ人を助けたいと思うところからだったかも知れません。だとしても、どんな人の相談も受けようという心理士ならば、自分はこんな体験をしてきた、こんなことを克服してきたから!と大きな声で言うことはありません。


心理士になる過程で、個人分析を受けたり、スーパーバイズを受けたりしながら、心理士は自分の痛みに直接触れる経験をします。その痛みをまず「知る」ことで、自分の「弱さ」や「強さ」「鈍さ」などを自覚するのです。それを必ずしも治す必要があるわけではないのですが、その「存在」を目をそらさずに把握すること、それが心理士になるためには求められるのです。なぜなら心理士は、自分の「こころ」や「感情」がどうクライエントに対して反応するかを体験し、この体験からクライエント理解をするように訓練を受けるからです。ですから、クライエントと同じ体験をしたことのある心理士ならば、確かに共感はしやすいかも知れませんが、自分の感情にも引きずられやすい危険性も併せ持っているのです。そうした目に見えない戦いを心理士は自分の中で見つめ、純粋にクライエント理解につなげていかなければなりません。この戦いの意味を理解している心理士ならば、自分の経験を公言できないし、する必要性を感じないわけです。


あまりに自己開示をしている心理士には御注意下さいね。

でも、悪い人ではありませんよ。

そんな事情を御理解頂いた上で会ってみて頂きたいと思います。


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