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kasugaimidori

不登校とひきこもり

更新日:2023年8月30日

1学期も終盤のこの時期、登校しぶりが起こるお子さんが増えてくる時期でもあるので、「不登校とひきこもり」

このテーマで少し思うところを書いてみようと思います。

私のこれまでの経験から思うところですので、すべての人にあてはまる意見ではないことをご了承の上、お付き合いください。


まず、「不登校」とか「ひきこもり」という言葉は、学校に行かないという「状態」、自室や家にひきこもる「状態」を指す言葉であって、病名や診断名、呼称ではないということを確認しておく必要があります。そういう状態、そういう事象を指し示す言葉なので、当事者の背景、特性、抱えている問題等々に共通点を見つけることや、「不登校にはこう対応するべき」「ひきこもりの原因はこう」と語ることにあまり意味はないのです。だって”人それぞれ”ですから。。。


このブログに辿り着く人の中には、今まさにお子さんの不登校やひきこもり状態に困っていて、なんとか解決策はないか、「不登校専門」「ひきこもりエキスパート」みたいな治療者や治療機関の情報を求めている方もいるかも知れません。

確かに、いろんな家庭事情やお子さんの性格やパターンを知っているという点で、そうした「専門性」には価値があるでしょう。ただ気を付けたいのは、「どんなお子さんでもすぐに学校に行けるようにします!」「楽しい学校生活をお約束します!」みたいな謳い文句には警鐘を鳴らして欲しいのです。


まず「すぐに」は無理です。

がっかりしますか?そうですよね、がっかりです。本人もがっかりしています。

不登校と呼ばれたり、ひきこもりと呼ばれるには、その現象が表に出るまでに数か月から数年の下積み時代があり、さらに学校に行かない時間が続き、部屋や家にひきこもる時間が長くなり、登校しない・ひきこもる「状態」になるまでにもさらに数か月かかったのちに、周囲が「不登校」「ひきこもり」と呼ぶようになるわけです。

それが数回のカリスマカウンセラーの面接や熱血教師の声掛けや啓発セミナーへの参加で、変化するわけがないですよね。それくらいでなんとなるなら、そうした状態を表に出す必要もないですし。おそらく、その過程で不登校にもひきこもりの状態にならずにきている人もたくさんいます。


では、どうすればいいのでしょう?

実は、先ほどお話した【下積み】【表に出る】【状態になる】このどこにアプローチするかで関わる人や関わり方が違ってくるのだと思います。それぞれの段階へのアプローチを、関わる人がきちんとわかっていて関わっているかどうかがとても大事になってきます。どんなに熱心で良い人で腕のいい専門家でも、全部をごっちゃにして自分の領分を区別できずに関わると、歯車のかみ合わせがうまくいかず、こじれにこじれてしまうことになりかねません


大雑把な私の私感からすると、目に見えやすい順番に、【表に出る】ところでは先生、【状態になる】ところでスクールカウンセラー(SC)、【下積み】には心理士がその専門性を発揮しやすいだろうなとは思いますが、アプローチできるところは、職業特性よりもその関わる人の特性(得意・不得意、好き・嫌い)で選んだらいいと思っています。


ひきこもりの場合は、ひきこもり状態になってしまっていると接点がなくなってしまっているので、直接のアプローチが難しくなります。接点が家族であったり母親であったりするのであれば、その接点となってる人へのアプローチからしていくのが良いと思います。本人が問題なのに、母親が相談に行くのは、母親自身の育て方に問題があると言われているようで気が進まない…と思われる方もいるかもしれませんが、社会との窓口が母親しかない場合は、そこを飛び越えて御本人へのアプローチは不可能です。御家族の関わり方やお母様の思いをうかがうことから、関わる人の小さな変化を御本人が感じ取り、少しずつでも「動き始めるきっかけ」になりうるのです。


【表に出る】【状態になる】でほどよい関わりが功を奏すると、登校しぶりは不登校にならずにすみますが、それでも諸手を挙げて「終わった~」となるのは、危険です。今回の登校しぶりは、お子さんがしんどいと感じた時に出す「サイン」の方法だということを覚えていて欲しいのです。このことは親子で確認できるといいと思います。つい登校できるようになると、「登校しぶり」をなかったことのように扱ってしまったり、そうした過去に触れないように気を付けたりしてしまいますが、「自分はこういうことが起こった時に、こういうサインを出しやすい」という自分の癖みたいなをものとして確認しておきたいものです。そうすると、またしぶりが起きた時に、「以前こういう時にもしぶってたじゃない?今回も何か気になることがあるんじゃない?」みたいに、はれ物に触るがごとく様子をうかがうのではなく、ずばり聞けるようになります。しぶりが見られなくなっても、自分のウィークポイントのようなものがわかっていて、なんとかなった経験があると、弱さに触れられることも怖くなく受け入れられるようになります。こういう弱いところは「治さないと」と考えがちですが、「治す」というよりは、「対策をとる」ことを考えられるといいなと思います。「一緒に治そうよ」と言われるより、「一緒に対策を考えようか」と言われる方が、なんとかなりそうな気がしませんか?


長引く不登校やひきこもりには、やはり【下積み】についての精査が必要になってきます。この【下積み】に発達の問題があったり、身体的な問題があったり、性格傾向の問題があったり、親子ないしは家族問題があったりすると、なかなか負の連鎖から抜け出せないシステムができあがってしまっているかも知れないからです。たいていこのシステムは、単発であることは少なく、様々な事情が絡み合っていることが多いため、解きほぐしには時間が必要になってきます。

ここへのアプローチには、専門的な知識とスキルとそれにかける時間が必要になるので、心理士が関わるのがベストだと思います。この役割をSCが担う場合もありますが、SCの置かれた環境によって対応できる範囲に限界があるので、やはり心理療法や精神療法ができる環境での心理士との関わりが良いのではないかと思います。SCもそうした解きほぐしが必要だと思われる場合には、適切な機関での相談を勧めてくれるでしょう。


心理士がまず行う専門的作業としては、「アセスメント」になっていきます。先にお話したように、御本人の【下積み】要因としてどんな可能性があるのかを、面接や検査や受診によって見立てるのです。心理士と関わるからと言って、なんでもかんでも心理療法をすればいいものでもありません。適切な見立てをして、適切な手立てを考える。必要なら治療や療育を絡めたり、家族との面接や関係調整を話し合ったり、環境調整をしたり、対応は様々になります。【下積み】に手を入れることは、とても時間もかかりますし労力もかかりますが、小さな毛玉が絡まって大きなボールになってしまってるようなものですので、地道な作業によってならしていくことができます。そうした上で、毛玉ができやすい事象・状況・性格傾向を認識し、これも「対策をとる」ことを考えていくのです。


この作業はとても時間がかかり、永遠と終わらないような気がしてしまうかも知れません。でも、こうした作業はやはり学生の時が一番効率が良いと思っています。

まず、学生だからこそ、登校しぶりや不登校としてサインが出せますし、サインも見つけてもらいやすいのです。そして、学生には小学校6年間、中学校3年間、高校3年間、大学4年間という「区切り」が一般化されているので、子ども本人、家族、関わる先生や心理士にも暗黙の了解があり、目標設定にもなります。小学校で不登校になっている場合、「中学に行くまでには何とかしたい…」みたいなものが、プレッシャーにもなりえますが、目標にもなります。こうした区切りをうまく使って治療を進めることも可能です。


学生時代に不安定ながらもなんとか乗り切り、社会に出てから不調をきたすようになると、なかなかこの【下積み】に手を入れるような治療につながりにくくなります。それはサインに気づく周囲の人の存在が減りますし、働くという経済的な背景をもつ行為の中では、事情が様々に絡み合い、簡単に「治す」という方向にいきにくくなってしまうのです。そして、いざ治療を始めても、社会にはあまり「区切り」がありません。社会に出てからの区切りは、転職であったり、結婚であったり、子供ができたり、自分で決めていかないと決まらないものになるので、「区切り」をつけるにもある程度のエネルギーがないとできないのです。自分以外につけられる区切りがない分、社会に出てからの治療はますます終わりが見えにくくなる気がしてしまうのです。比べるものでもありませんが、学生時代に不調が出現し、いずれ【下積み】にテコ入れをするのであれば、”今のうち”と思って頂きたいなと思います。


私は社会に出てからのクライエントさんにお会いすることがとても多いです。

もちろん、このタイミングでカウンセリングに来ようと思えたことには、とても大事な意味がありますし、自分のケアを他人に任せるのではなく、自分で何とかしようと思えたということは素晴らしいことです。

クライエントさんたちの物語をうかがうと、学生時代にもそれなりのサインを出していることが多々あります。このサインが見逃されてしまったこと、サインがあっても対処できる術がなかったこと、そうした環境になかったこと、状況はいろいろですが、惜しかったなぁと思うことも多々あります。その時にケアできていれば…ここまでしんどくならなかったかも知れないのにとも思うのです。


不登校やひきこもりという現象に親御さんは打ちのめされてしまいますよね。

そのお気持ちは痛いほど伝わります。

そのお子さんの一生を見据えてみると、それほどのサインを出せた、お子さんの強さも誇れると思いませんか?

お子さん自身も自分が不登校やひきこもりになれば、家族が困り悲しむことも苦しめることになるのも重々承知です。

それ以上の苦しみや生きづらさがあると、声を張ってくれているのです。

今、このサインを出すことに意味があると思いませんか?

心の問題にとりかかるのに、遅すぎることはありません。

いつも「今が一番早い」のですから。


それから、親御さんが周囲に「頼る」ことができないと、お子さん自身も「頼る」ことができません。同じように、親御さん自身が御自分の問題に対峙しないのに、お子さんに「自分と向き合え」というのも無理な話です。

抱え込まずに頼る姿を見せることも、しんどいけれど、自分の問題と対峙する姿を見せることも、お子さんがひとりの「大人」として親御さんを認識し、「人を信じる」ことを覚えるきっかけにもなるのです。結果がうまくいくかいかないかよりも、この姿を見せることに意味があると思っています。


それぞれのタイミングでうまく専門家を使っていって欲しいと思います。

いつもまっすぐの道があるわけではないので、本当の支援にたどり着くには紆余曲折あるかもしれません。

いろいろ大変だったよね…、なかなか光が見えなくて辛かったよね、でも辿り着いたよね…そう話せるようになるといいなと思います。

まずは、最初のドアを叩いてみてください。




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